2018年08月01日

免許更新中毒者の話 その3




僕は奇妙な髪型のまま数日間無気力なまま過ごしていた。
「なぜ、誰に頼まれたわけでもないのにこんな事をしているのだろう」
「そろそろ後継者を作るべきではなかろうか。」
「というか、そもそも後継者ってなんなんだよ。」
そんな自問自答の日々である。


しかし、いくら考えてみたところでもうやるしか無いのだ。
何故なら明日には用事があって僕は東京に行かねばならないのだから。そして、東京に行っている間に免許の更新期間も切れてしまう。

つまり、免許更新はもう今日しかない。
そのようなギリギリになるまで無為な時間を過ごしていたせいで、僕は本来やろうとしていた姿を諦めねばならなかった。



これまで女装で性別を越え、殿様で時代を越え、カッパで種族を越えてきた。

もう次のステップとして目指すべきは神しかなかったのである。

そんな我々の世代で神と言ったら一人しか居ない。






















そう、ナメック星人である。





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そのために僕は触角用に髪型を残していたのだ。





本来であればそのまま肌を緑色に塗り、神と同化したピッコロになりきって免許更新へ挑戦したいところであるが、僕も世の常識くらいは充分に理解している。
免許更新にナメック星人がやって来たら、「お前は帰れ!」と一喝されるのは目に見えている。


それこそ、時間の猶予さえあれば手を変え品を変え、多様なチャレンジを繰り返せるが、今日に限っては、そんな門前払いを受けてしまったら、もう僕の免許更新のチャンスは無くなり、ただの気味の悪い髪型の男として東京に行くだけである。

それだけは避けねばならない。

そもそも、失敗を恐れずに挑戦できるほど僕はクレイジーな人間ではない。高校生の時に知らない女子から「あの人は障がい者なの?」と言われた経験から、僕の中で人に変わり者として見られる事はトラウマになっており、その時からなるべく変人扱いされないように努めてきた。

とは言っても、20代を過ぎても、自分が好きな事や正しいと思った事が、人に煙たがられたり怒られたりする事がままある。

その自分がやりたい事を客観的に捉え、一般的価値観に照らし合わせ、さも正当性があるように振る舞う説得力を磨くために、なにか行動を起こす際には、ちゃんと「やりたい事」「やるべき事」「やれる事」「やらなくていい事」「やりたくない事」これら5つをピックアップし、それらを天秤にかけ、どうする事がベストであるかという理論的思考能力を身につけられるようになった事は自分の人生において非常にデカい気がする。

当然、その思考法は今回も例外ではない。






【やりたい事】
ピッコロになって免許証を発行したい(感情的には全くやりたくない。これはあくまで目標値。)


【やるべき事】
無事に免許更新を終えること。


【やれる事】
免許更新で門前払いにならない程度の軽いもの。


【やらなくていい事】
無茶をして家に返されること。


【やりたくない事】
わざわざ変な格好と演技をして大人に怒られるようなこと。



これら5つから総合的に判断して導き出される答えはもう誰もが想像できる範囲内の妥協案しか残されてはいない。
そして、あいにく僕自身も人々の想像を上回れるほどの発想力も無ければ、人々の期待に応えられるほどのサービス精神もないため、いささか心苦しくはあるが、正攻法でゆく事にした。













とりあえず、肌を緑色するのは絶対にNGなので、それだけは避ける事で方向性は決まっている。



ただ、緑色ではなく、人間らしい肌の色であれば怒られないはずである。










つまり、黒人であれば許されるに違いない。


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当初のナメック星人案から比べてみれば随分と消極的なものになってしまったが、誰がどう考えても、これが常識の範囲内の限界だと思うので、このような格好に落ち着いてしまった僕をどうか誰も責めないで欲しい。


ただし、ここで大きな問題が一つあった。
そもそも、この日になるまで黒人になる準備などしていなかったので、ファンデーションなど用意してるはずもなかった事である。


そうなると、当然家の中にあるもので代用するしかない。

もはや家にあるものなんて相当限られてくる。

どこを探してみたってアクリル絵の具以外の選択肢はなく、それを顔や腕に塗りたくるしかなかった。
しかも、よりによってツヤありインクしかなかったせいでテカりがすごい。

ツヤなしインクがあればシットリと肌に馴染み、安全性は高いような気がするのだが、無い物は無いため、背に腹は変えられない。

そこで極力僕の黒光りしたこの肌から目を逸らさせるために、ナメック星人の触角用に残していた髪型を「!?」マークにしてメッセージ性を持たせる事にした。



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ちなみにこの「!?」マークは"特攻の拓"という
マンガにインスパイアされている。



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「特攻の拓」において、このマークは危険信号である。
そんな危険な状態の男を前にして肌の色をとやかく言う人はまさかいるまい。


それでも、もし、仮に肌の色の事を言われても、ただの日焼けだと押し通せば良い。

我ながら即席のアイディアにしては穴のない完璧な作戦である。
そして、僕はいざ免許更新センターへと向かった。

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※ちなみに「!?」マークの「‥」部分は両面テープで移植した。女性だってまつ毛エクステをして免許更新をしているのだから、僕のこの毛だってまつ毛より少し上の方にズレただけのなんてことのない植毛である。これがダメという事は無いはずだ。






とは言っても、段々と免許更新センターに近付くにつれて憂鬱な気分はぶり返してくる。


妥協案と言えど、誰がどう見ても頭のおかしい身なりをしてる事くらい鏡を見なくたって、多少の客観性があれば充分理解が出来る。

僕はずっと嫌だ嫌だと駄々をこねていた。


そうこう悩んでる内に免許更新センターに到着。



僕は意を決して、パーカーのフードをかぶり、なるべく目立たないように受付へ向かった。


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※受付をする僕の後ろ姿。フードの隙間からハテナマークがチラリとこんにちはしてるのがお茶目だ。



最初、受付の女性はギョッとしてたものの難なく受付はクリア。

しかし、なんだか偉そうなおじさんがやってきてざわつき始める。


僕はひたすら周囲の景色に同化するナナフシのような心持ちで存在を消して待っていた。

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※参考(木の枝に擬態するナナフシ)


しかし、そんな僕の祈りも虚しく免許更新センターの偉そうなおじさんから手招きをされてしまう。







おじさん「その髪型はどうなってるんだ?」




僕「え?スプレーで固めてますが何か問題でも?」



おじさん「…」




僕「…」





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おじさんは、困惑と苛立ち交わる無言の圧力をかけてくるも、僕はなんてことないどこにでもいる一般市民として、さも当たり前のように振る舞う。






おじさん「…その肌はなんだね?」



僕「肌?なんのことですか?」



おじさん「その色、何を塗ってるんだね?」



僕「ただの日焼けです。」



おじさん「ただの日焼けがそんなまだら模様になるはずがない!」



僕「は、肌が…弱いんです。」



おじさん「…。」



僕「…。」



おじさん「分かった…。いきなさい」











の、のりきった!やった!!





と、ここでぬか喜びはできない。

警察官とは、安心を与えて気を緩めた隙に絶望のドン底に落とすプロである。

それは免許更新センターの職員も例外ではない。

何故なら、僕は一度、バカ殿姿で免許更新に行った際に、発行済みの免許証を剥奪され、再撮影に至った過去があるからだ。


僕は席に戻り、また彼らに目がつけられないように再びナナフシのように心を無にして気配を殺した。


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しばらくするとまた手招きされる。


再び押し問答が始まるのかと憂鬱な気持ちになりながらも、強い意志を持って挑もうと、受付カウンターへと向かった。






おじさん「きみ、それ日焼けじゃないよね?」



僕「いやいや、だから肌が弱っ…!!!!!???」


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受付カウンターの向こう側のパソコンの画面を見た僕は自分の目を疑った。







そこに開かれていたのは僕のこれまでの免許証の数々であったのだ。






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…ぶっこまれた。







僕は絶体絶命の危機を察知した。






















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posted by ユーチャンチャン at 03:01| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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