中国中盤編。
外からあちらこちらでけたたましく響き渡る車のクラクションの音に起こされる。
香港から中国に入っての明らかな違いと言えば、街の中あちらこちらで鳴り止まないクラクションの音だろう。
中国人はみんなちょっとした事でクラクションを鳴らしたがる。
最初こそ戸惑ったものの、ただ、そこには悪気や悪意めいたものは無く、自転車のベルを鳴らすくらいの気軽な感覚で、「みなさん!私が通りますよー!」と言った意味合いの一種の自己主張のようなものに感じられる。
とは言っても窓を閉め切ったホテルの一室にまで響くほどの騒音を発しているのはもはや公害に近い。なので、中国に輸出する全ての自動車にはオナラのようなマヌケな音のクラクションを採用するべきだと僕は提案したくて仕方がない。
そのような下品な音であれば、いくら中国人と言えど、恥ずかしてむやみやたらに鳴らすことも減るはずであろう。減らずともそこら中で多種多様なオナラの音が鳴り響いていたら楽しい気持ちでいられるというものだ。
そんなこんなで決して良い目覚めとは言えない朝を迎え、僕らは宿を後にした。
今回の旅はなんとなく目的もなく来てしまったものの、それなりに意義あるものにしようという理由から、僕はCDのプレス会社へ行く事にした。
これまで日本のプレス代行会社に頼んでいたものの、現地の工場と直接取引きした方が安くて早いのではと思い、前日に調べたプレス会社へ向かった。幸いな事に英語が達者な職員がおり、色々と有意義な話ができた。
それから今度はマリさんのお店の商品の買い付けに行く事にした。
が、その前に楽器の問屋ビルがあるとヤマちゃんに教えて貰っていたので、そこに向かったのだが、その問屋ビルをプラプラ歩いていると突然すれ違いざまに大きな声で女の人に呼び止められた。
「なに?!なに?!こわい!こわい!!」
何を言ってるのか分からず戸惑う僕らに対して興奮気味に話しかけてきている。
しかし、ハッと気付いた。丁度この人は先ほど電車に乗るときに構内の長い階段を一人で赤ちゃんと乳母車を持って歩こうとしていたので、助けた人だったのだ。
赤ちゃんと旦那もやってきて一緒に写真を撮った。ずっと嬉しそうに色々話しかけてくれていたが、最後まで何を言ってるのか分からなかった。
その人たちと別れたのち、僕らは謎のヒョウタン笛屋さんに魅了されてしまい、ついヒョウタン笛をひとつ買ってしまう。
それから今度は雑貨や玩具の巨大問屋ビルへと向かうために電車に乗るが、電車に乗るのは毎回大変で、どの駅に行っても苦労する。
空港のような荷物のX線検査を必ず潜らなきゃいけないのに加え、券売機がなぜか全ての駅でお札は5元しか使えず、なんならお札も綺麗なお札でないと認識してくれない精度の悪さ。明らかに周りの利用者たちも困ってる。
近くにある自販機でお金を崩そうとジュースを買うと、券売機では使えない小さい硬貨ばかりがジャラジャラ出てきて話にならないし、駅員に両替をお願いしようとすると、また荷物検査をやり直さないといけないし、一瞬ぼくらはこの駅から抜け出せないのではないかと頭を過るような時間であった。
いくらなんでもかなり効率の悪すぎるシステムが運用されているので、最初からヤマちゃんが言うオクトパスカードというものを購入しておけば良かったと真底思った。
なんとか目的の駅までは行け、問屋ビルまでの道中、汚い道の外れに宿屋らしきものを発見し、かなり安かったので、その日はそこに泊まる事に決め、先にチェックインだけ済ましておいた。
そこから、再び問屋ビルを目指す。
何故か大通りの歩道の真ん中で小便をしている親子を発見。
そういえば、昨日は道の真ん中で転がって寝てるホームレスを見たし、今朝は道の真ん中でズボンを履き替えてるおじさんを見たし(※ちなみに中国には暑くて上半身裸になる男性がそこら中にいる。だらしなくてとても安心する。)みんな、恥じらいという思いがないのか、なぜみんなわざわざ真ん中に行くのか理解できないが、やはりクラクションと同じように、ほとばしる自己主張魂がうずくのかもしれない。
インターネットが普及するこの国際社会で、世界中で標準化、規格化されつつある文化やモラル、価値観がこの大国には及んでいないまま、技術レベルの高いシステムやハイテク製品に囲まれいるのかと思うとすごく興味深くなる。
街の中だって沖縄じゃ見たことも無いような高層ビルがそこら中に突き刺さっており、よっぽど都会のはずなのに、なんだかとても世間知らずの田舎に来たような不思議な感覚になり、僕は非常に興味をそそられるのだった。
それはさておき話を戻そう。
僕らは問屋街に無事に到着。
ヤマちゃんが言うにはドローンをブーメランみたいに扱うドローン屋さんがあって、一日中ドローンを操作してるので滅茶苦茶上手いと言っていたのを楽しみにしていたが、これでもかという表情で自慢気に僕を見ながら、激しく壁にドローンをぶつけて、見るも無残にプロペラが砕け散らせていたので、さっと目を逸らしてしまった。
見てはいけないものを見たような気がしたが、その時の店員の顔が忘れられず、僕は猛烈にドローンが欲しくてたまらなくなり始めていた。
しかし、別の店では、先程と同じように今度はハンドルレスのセグウェイみたいな乗り物がそこら中で売っており、店員が楽しそうに乗っていた。
以前、コザで陽気なアメリカ人がチャラチャラしたEDMをかけながら、それで高速移動しているのを見て、乗せてもらったら凄い楽しかったなあと思い出しながら、そのアイテムもものすごく欲しくなってしまったが、さすがに荷物になるしと、雑念を振り払うために僕は一人外に出て無心でヒョウタン笛を吹きまくるのだった。
そして、買い物を終えたマリさんと合流。カバンがすごく重くなっていた。
夜は宿のすぐ隣の屋台で適当に注文したものを食べる。
今回の旅で一番美味しかった。
つづく
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