2018年08月01日

免許更新中毒者の話 その4









じわり。




僕は、身体中の汗腺から嫌な汗が吹き出してきた。


心臓の鼓動は小刻みなビートを刻みながら脳みそに血液と共に大量の酸素と糖分を送り込む。



額からは一筋の汗がゆっくりと流れる。




わずかコンマ数秒の間で打開策を見つけ出さないといけないわけだが、そのコンマ数秒でも考える時間としては充分な量の脳内物質が生成され、ノルアドレナリン漬けになった僕の脳内では体感時間が100分の1ほどに感じられる能力を手にしていた。



汗はゆっくり額から頬へ。



その間、まるで詰将棋をするかの如く、何手先も読みながら、どのような言葉を返せば乗り越える事ができるだろうかと、あらゆるパターンを想定する。


顎の先からゆっくりと離れる汗。


何十通りもの候補から、最善の一手を導き出そうと高速処理をする脳細胞は、さらにこれまでの自分自身の過去を遡り、いかにして危機を乗り越えてきたか経験則に沿って、この危機の回避率が最も高い発言や行動の計算に入る。



身体から離れた一滴の汗はまだ宙に浮いたままである。



「今まで色々なピンチを乗り越えて来たはずだ。」
走馬灯のようにフル回転する脳はこれまで起きた数々の危機をフラッシュバックさせる。

子どものときに犬に噛まれたときの事から、お尻を怪我してパンツと皮膚が一体化しウンチが出来なくなってしまった事、そして、バイクで顔面から地面に向かってダイブした事、お金が無さ過ぎてスーパーの試食コーナーで一週間飢えを凌いでいた事、ライブハウスでブレーンバスターを喰らって脳出血を起こした事、他人の言葉に踊らされたアホから首元にナイフを突きつけられた事、廃墟に侵入したらパトカー10台くらい来て立てこもり犯みたいに取り囲まれた事…

色んな危険に晒されてきたのだから、ここから導き出される答えは…



あ、ダメだ!何一つ参考にならない!





ポタン



地面に汗が落ちた頃には時の流れはもう平常通りに戻っていた。





それは一つの大きな誤算。

まるで自分自身がスーパーコンピュータにでもなったつもりで、ものすごいスピードで脳を働かせてはみたものの、そもそも僕の脳みそはどれだけ回転させてもWindows95にも満たない、さしずめファミコン程度の演算能力しかなかったということ。






僕「な、ななななに言ってんすかね。あははは、このおじさん本当に困っちゃうな!」



一番最悪な手段「しらばっくれる」という悪手を僕は選んでいた。


もうこうなった時点でほぼほぼ手詰まりである。




おじさん「だって、キミね。これまでの免許証の写真全部ふざけてるよね?」


僕「ぇえ?!ふざ…、普段からいつもこんな感じなんですけど!ししし失礼だなあ。バンドとかやってるからついつい髪とか立てちゃうんですよね。」


おじさん「まあ髪は良い、その顔。絶対に日焼けじゃないよね?なんか塗ってるよね?」


僕「ぬ…塗るってなにが?な、なんの話ですかね?」


おじさん「いや、さっきから茶色汗をかいているのに何を言ってるんだ。」











ぁぁぁああああああ!!!!!!!!












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髪が全部抜けるかと思うほどの動揺。
余計にダクダクと汗をかいてしまう。


僕「い、いいいいや!まままあ、確かに塗ってると言えば塗ってますよ。でも、それの何が悪いんですかね?いやあ、僕には分かんないなあ!」


しらばっくれからの開き直り。



おじさん「他の免許証と顔が違いすぎる!そんなのは認められない」


僕「いや!顔は一緒ですって!肌の色が違うだけじゃないですか!それに、本当に日焼けが酷くてこれを塗ってないと肌が荒れて大変なんです!」


開き直りからのウソに移行。


余談ではあるが、僕は基本的に嘘をつく事が出来ない。

いや、正確には嘘をつけないのではなく、嘘をつくのが物凄くヘタクソなのだ。

それを自分で分かっているからこそ、わざわざバレて取り返しのつかないことになるくらいなら、最初から正直でいた方がマシだと思い、普段からウソをつかない。


それだけ嘘がヘタクソなのだ。

正直、もうこの先の会話は本当に恥ずかしくて思い出したくもない。





おじさん「おかしいな。これまでの写真を見ても全てキミは綺麗な肌じゃないか?」



僕「いや、最近から肌が荒れるようになって、そしたら、ウチのばあちゃん直伝の秘薬があって、それを肌に塗ると皮膚が再生するんです!」


おじさん「そんなの信じられるわけがない!なんなんなんだその薬は?そんな色の塗り薬なんて見たことない!」


僕「あ!ある!!なんかビワの葉っぱとか…、なんか薬草とか…、なんかすごいやつが調合された…ぁぁあ!!ばあちゃんの塗り薬をバカにしないで下さい!」




本当に見苦しい。
これを読んでる人はこの会話の内容こそまさに嘘ではないのかと疑うかもしれない。

言っておくけど、言葉遣いに多少の脚色こそあれど、会話の内容は本当にこのままなのだ。
正直なんでビワの葉っぱをピンポイントで出してきたのかもよく分からない。きっと肌に良さそうと思ったのだろうけど、とにかく僕はヤケになってしまっていたのだから仕方がない。冷静な感情に戻ることなんて不可能だった。



ただの色黒の男としてやってきたはずなのに、いつの間にか謎の秘薬を身体中に塗りたくった男という設定に変わっており、当初の脚本と違いすぎて、にっちもさっちもいかなくなっていたのだから無理もない。






とは言っても、中学の時の僕の学年の成績は下から四番目で、その内の下位3人は不登校だったので、結果として学校で1番頭の悪いのは自分だった事実は認めるしかない。あの中学生の時から僕は頭脳も精神構造も対して成長していなかったのかもしれない。


だって、ここからさらに見苦しい泥沼の戦いになってゆくのだから。







posted by ユーチャンチャン at 22:19| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

免許更新中毒者の話 その3




僕は奇妙な髪型のまま数日間無気力なまま過ごしていた。
「なぜ、誰に頼まれたわけでもないのにこんな事をしているのだろう」
「そろそろ後継者を作るべきではなかろうか。」
「というか、そもそも後継者ってなんなんだよ。」
そんな自問自答の日々である。


しかし、いくら考えてみたところでもうやるしか無いのだ。
何故なら明日には用事があって僕は東京に行かねばならないのだから。そして、東京に行っている間に免許の更新期間も切れてしまう。

つまり、免許更新はもう今日しかない。
そのようなギリギリになるまで無為な時間を過ごしていたせいで、僕は本来やろうとしていた姿を諦めねばならなかった。



これまで女装で性別を越え、殿様で時代を越え、カッパで種族を越えてきた。

もう次のステップとして目指すべきは神しかなかったのである。

そんな我々の世代で神と言ったら一人しか居ない。






















そう、ナメック星人である。





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そのために僕は触角用に髪型を残していたのだ。





本来であればそのまま肌を緑色に塗り、神と同化したピッコロになりきって免許更新へ挑戦したいところであるが、僕も世の常識くらいは充分に理解している。
免許更新にナメック星人がやって来たら、「お前は帰れ!」と一喝されるのは目に見えている。


それこそ、時間の猶予さえあれば手を変え品を変え、多様なチャレンジを繰り返せるが、今日に限っては、そんな門前払いを受けてしまったら、もう僕の免許更新のチャンスは無くなり、ただの気味の悪い髪型の男として東京に行くだけである。

それだけは避けねばならない。

そもそも、失敗を恐れずに挑戦できるほど僕はクレイジーな人間ではない。高校生の時に知らない女子から「あの人は障がい者なの?」と言われた経験から、僕の中で人に変わり者として見られる事はトラウマになっており、その時からなるべく変人扱いされないように努めてきた。

とは言っても、20代を過ぎても、自分が好きな事や正しいと思った事が、人に煙たがられたり怒られたりする事がままある。

その自分がやりたい事を客観的に捉え、一般的価値観に照らし合わせ、さも正当性があるように振る舞う説得力を磨くために、なにか行動を起こす際には、ちゃんと「やりたい事」「やるべき事」「やれる事」「やらなくていい事」「やりたくない事」これら5つをピックアップし、それらを天秤にかけ、どうする事がベストであるかという理論的思考能力を身につけられるようになった事は自分の人生において非常にデカい気がする。

当然、その思考法は今回も例外ではない。






【やりたい事】
ピッコロになって免許証を発行したい(感情的には全くやりたくない。これはあくまで目標値。)


【やるべき事】
無事に免許更新を終えること。


【やれる事】
免許更新で門前払いにならない程度の軽いもの。


【やらなくていい事】
無茶をして家に返されること。


【やりたくない事】
わざわざ変な格好と演技をして大人に怒られるようなこと。



これら5つから総合的に判断して導き出される答えはもう誰もが想像できる範囲内の妥協案しか残されてはいない。
そして、あいにく僕自身も人々の想像を上回れるほどの発想力も無ければ、人々の期待に応えられるほどのサービス精神もないため、いささか心苦しくはあるが、正攻法でゆく事にした。













とりあえず、肌を緑色するのは絶対にNGなので、それだけは避ける事で方向性は決まっている。



ただ、緑色ではなく、人間らしい肌の色であれば怒られないはずである。










つまり、黒人であれば許されるに違いない。


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当初のナメック星人案から比べてみれば随分と消極的なものになってしまったが、誰がどう考えても、これが常識の範囲内の限界だと思うので、このような格好に落ち着いてしまった僕をどうか誰も責めないで欲しい。


ただし、ここで大きな問題が一つあった。
そもそも、この日になるまで黒人になる準備などしていなかったので、ファンデーションなど用意してるはずもなかった事である。


そうなると、当然家の中にあるもので代用するしかない。

もはや家にあるものなんて相当限られてくる。

どこを探してみたってアクリル絵の具以外の選択肢はなく、それを顔や腕に塗りたくるしかなかった。
しかも、よりによってツヤありインクしかなかったせいでテカりがすごい。

ツヤなしインクがあればシットリと肌に馴染み、安全性は高いような気がするのだが、無い物は無いため、背に腹は変えられない。

そこで極力僕の黒光りしたこの肌から目を逸らさせるために、ナメック星人の触角用に残していた髪型を「!?」マークにしてメッセージ性を持たせる事にした。



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ちなみにこの「!?」マークは"特攻の拓"という
マンガにインスパイアされている。



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「特攻の拓」において、このマークは危険信号である。
そんな危険な状態の男を前にして肌の色をとやかく言う人はまさかいるまい。


それでも、もし、仮に肌の色の事を言われても、ただの日焼けだと押し通せば良い。

我ながら即席のアイディアにしては穴のない完璧な作戦である。
そして、僕はいざ免許更新センターへと向かった。

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※ちなみに「!?」マークの「‥」部分は両面テープで移植した。女性だってまつ毛エクステをして免許更新をしているのだから、僕のこの毛だってまつ毛より少し上の方にズレただけのなんてことのない植毛である。これがダメという事は無いはずだ。






とは言っても、段々と免許更新センターに近付くにつれて憂鬱な気分はぶり返してくる。


妥協案と言えど、誰がどう見ても頭のおかしい身なりをしてる事くらい鏡を見なくたって、多少の客観性があれば充分理解が出来る。

僕はずっと嫌だ嫌だと駄々をこねていた。


そうこう悩んでる内に免許更新センターに到着。



僕は意を決して、パーカーのフードをかぶり、なるべく目立たないように受付へ向かった。


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※受付をする僕の後ろ姿。フードの隙間からハテナマークがチラリとこんにちはしてるのがお茶目だ。



最初、受付の女性はギョッとしてたものの難なく受付はクリア。

しかし、なんだか偉そうなおじさんがやってきてざわつき始める。


僕はひたすら周囲の景色に同化するナナフシのような心持ちで存在を消して待っていた。

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※参考(木の枝に擬態するナナフシ)


しかし、そんな僕の祈りも虚しく免許更新センターの偉そうなおじさんから手招きをされてしまう。







おじさん「その髪型はどうなってるんだ?」




僕「え?スプレーで固めてますが何か問題でも?」



おじさん「…」




僕「…」





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おじさんは、困惑と苛立ち交わる無言の圧力をかけてくるも、僕はなんてことないどこにでもいる一般市民として、さも当たり前のように振る舞う。






おじさん「…その肌はなんだね?」



僕「肌?なんのことですか?」



おじさん「その色、何を塗ってるんだね?」



僕「ただの日焼けです。」



おじさん「ただの日焼けがそんなまだら模様になるはずがない!」



僕「は、肌が…弱いんです。」



おじさん「…。」



僕「…。」



おじさん「分かった…。いきなさい」











の、のりきった!やった!!





と、ここでぬか喜びはできない。

警察官とは、安心を与えて気を緩めた隙に絶望のドン底に落とすプロである。

それは免許更新センターの職員も例外ではない。

何故なら、僕は一度、バカ殿姿で免許更新に行った際に、発行済みの免許証を剥奪され、再撮影に至った過去があるからだ。


僕は席に戻り、また彼らに目がつけられないように再びナナフシのように心を無にして気配を殺した。


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しばらくするとまた手招きされる。


再び押し問答が始まるのかと憂鬱な気持ちになりながらも、強い意志を持って挑もうと、受付カウンターへと向かった。






おじさん「きみ、それ日焼けじゃないよね?」



僕「いやいや、だから肌が弱っ…!!!!!???」


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受付カウンターの向こう側のパソコンの画面を見た僕は自分の目を疑った。







そこに開かれていたのは僕のこれまでの免許証の数々であったのだ。






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…ぶっこまれた。







僕は絶体絶命の危機を察知した。






















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posted by ユーチャンチャン at 03:01| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする